冷静と情熱のあいだを読了して
「下宿らうど」というクラウドソーシングの体験をさせてもらった時、趣味は読書なのってお話ししたら、おばあちゃんが読み終わったから、とくれたのが「冷静と情熱のあいだ」でした。
2冊をじっくり読み込みたいから、読書時間の経過を忘れさせてくれる季節「秋」に読もうってずっと思っていて、今、読了。
「冷静と情熱のあいだ」は、同じタイトルで違う作家による二冊の本が出版されているもの。
最初に江國香織がヒロインあおいの目線で、続いて辻仁成がヒーロー阿形順正(あがたじゅんせい)の目線で、文通のような恋愛小説が出来上がったのです。
時系列通り読みたいのであれば、赤と青の小説を一章ごと、交互に読んでいきます。
小説を読み終わっての気づいたことは、どんな恋も、一人の持ち分は1/2であるということ。
そして、優しすぎる男性は女性に選ばれることがないということ。
あおいとの思い出に縋る。現実の苦悩から離脱するために昔の記憶の、一番楽しかった頃を思い浮かべた。楽しかった頃・・・・
実際にはその期間は短い。なのに、その後の寂しい別れよりも、最初に思い出すのは美しい日々のことばかりだった。今は、特に綺麗な思い出だけを求めていたかった。二人でまわし読みした本。二人で聴いた音楽。二人で通ったカフェ。二人で歩いた道。二人で見た空・・・・・
切ないのに愛おしい描写がすごく響く作品でした。私は文学作品だと、決まって過去ばかり見つめるダメな男性が好きですねえ。
文字にして残すということは、どんな過去でも永遠に残しておきたいから、ということなんですよね。だから、過去に捕われる文学作品が多いのも頷けるけれど・・・。
現実世界では、今の自分を愛してくれる男性と未来をみていきたいものです。
「冷静と情熱のあいだ」は二人で過ごす特別でないただの一日のなかで、ヒロインあおいの30歳の誕生日にフィレンツェのドゥオモで会う、たわいもない約束をします。
あのね、約束をしてくれる?
どんな?
私の三十歳の誕生日に、フィレンツェのドゥオモのね、クーポラの上で待ち合わせをするの、どお?
フィレンツェのドゥオモ?どうしてそんな場所で?ミラノのドゥオモではいけないの?
ミラノの方は世界で一番綺麗なドゥオモで、フィレンツェの方は世界で一番素敵なドゥオモだってフェデリカが言ってた。
またフェデリカか。
何百段の階段を汗を流して必死で登り切った後に待っているフィレンツェの美しい中世の街並は、間違いなく恋人たちの心を結び付ける美徳があるんだそうよ。
でも別に、待ち合わせなんかしなくてもいいじゃないか。三十歳の君の誕生日にいっしょに行こうよ。
そうね、二人が別れていなければ。
へんなことを言う。それじゃまるでぼくたち別れちゃうみたいじゃないか。君は予言者かい?
わかんないわ。未来のことは。だからね、今日を大切に思うのなら、約束をして欲しいの。今日のこの気持ちをいつまでも自分たちのものだけにしたいから約束をするの。私の三十歳の誕生日に、クーポラの上で待っていて。
君が先に着くかもしれないじゃないか。
いいえ、わたしのことをいつまでも思ってくれるならあなたが先に登って待っていてくれなきゃだめ。
三十歳か。あと十年も先のことだ・・・
また、この作品ではイタリアのフィレンツェや修復士についての描写がたくさんあります。世界史を専攻していたのも重なって、イタリアの魅力にどっぷり浸かってしまいました。
イタリア語でルネッサンスのことを、Rinascimento(リナシメント)と言う。(中略)
フィレンツェはそのリナシメントの発祥の地である。近代的なビルをここで探すことは不可能に近い。
十六世紀以降、時間を止めてしまった街。まるで街全体が美術館といった感じ。
冬は暖房が効かず、凍えるように寒く、夏はその逆で風が抜けずに暑い。それを愛せなければここで暮らすことはできない。
ちなみに、私も三十歳の誕生日にフィレンツェのドゥオモで待ち合わせしたいなと思って、現在お付き合いしている人にこの話をしてみました。
すると「じゃあ、今すぐ別れよう」との返事が。これも楽しかった昔の思い出に、いつかなるのでしょうか。いやあ、楽しくないですね。