『春秋戦国完全ビジュアルガイド』を読了して
今年の秋は、何かに取り憑かれたように古代中国史にハマっていた。
事の始まりは、大学の選択必修科目の、古代中国の辺境と文芸を扱う授業を取ったこと。
大学の第二外国語で中国語を選択したし、時間割の都合もちょうど良いし、先生が面白いから取ろう、三国志もいつか勉強してみたいし……と軽い気持ちで選んだ。
この講義の目的は、古代中国における「辺境」をテーマに、周王朝を中心に多数の国家が分立した春秋戦国時代についての文学作品を通じて、21世紀の多極化した世界を理解し,文化的・精神的次元における幅広い視野を培うことを目指すこと。
だが、そもそも春秋戦国時代は紀元前の頃なので、文学作品は、司馬遷『史記』、魯の年代記『春秋』、『楚辞』、『戦国策』と言った歴史書ぐらいしかない。文学的アプローチなんてものはできないのだ。講師の解説に耳を傾けるだけの授業、つまりは歴史の授業を受けているようなものである。
世界史の授業は好きだったけど、専門分野でもないし、気軽に授業を受けよう、と思っていたのだが、ハマってしまった。
伝説の夏王朝から、殷(商)、周、春秋、戦国、秦、漢、三国時代、と続く中国の歴史。
この古代王朝の変遷を字面で見る限りでは、結構簡単に統一しているように思えるが、この統一までには数々のドラマがあった。
実は何度も国が統一と分裂を繰り返しているのだ。
殷を滅ぼした周は、初めて中国を統一した秦に滅ぼされるまで、国は存在していたものの、小国になっていった。
殷を滅ぼし、都を鎬京においていた時代の周を西周と呼び、西方の犬戎に都・鎬京を攻略され、洛邑に東遷した前770年からの周を東周と呼ぶ。
西周時代は、周の王を天子とし、その下に今で言う県知事みたいな諸侯を統制して国として統治していた。
だが東周とも呼ばれる周王朝が諸侯を統制する力を失い、名目だけの存在になると、力のある有力諸侯(県知事)は弱い諸侯を糾合し、さらに力をつけていく。
力をつけた諸侯の中には、周王室に代わって、諸侯同士の紛争の仲裁や異民族の討伐などを行う者が現れる。これが「覇者」だ。覇者には当初、東周の王室を奉じるという大義名分があったが、実力主義の色合いが濃くなってくる。
周の北に位置する晋という国が韓・魏・趙の3国に分裂し、前403年周王によって三家が諸侯として認められたところから、諸侯の下克上の時代、戦国時代が始まる。
春秋時代は「尊王攘夷」という周王室を尊び、異民族の侵入を討ち払うというスローガンのもと、世襲の貴族の時代であった。
対して、戦国時代は下克上、実力主義の時代。そのため、諸侯は誰を役人や将軍にするかの選択が重要になる。言わば人材の時代になった。
この人材の時代になったおかげで、才能やユニークな人が重用され、古事成語やことわざが生まれ、諸子百家と呼ばれる思想家も生まれた。ここに、古代中国史の面白さが生まれたのだ!
(つらつらと春秋戦国時代の概要を書いてきましたが、この本のなか見!検索を見ると解りやすいかも。)
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「人材」の時代、戦国時代。そんな時代に生きた一人に惹かれて、私は古代中国史に夢中になった。
その人物とは、小国だったが新たな法律を制定したことで強国になり、後に中国統一まで果たす秦に改革をもたらした法家・商鞅だ。
商鞅は若い頃、魏という国で宰相の公叔座に仕えていた。公叔座は商鞅の賢明なのを知っていたが、まだ王に推薦の機会がなかった。
公叔座が病に倒れた際、魏の恵王は言った。
「きみの病気に、もしものことがあるときは、国家を誰に託したらよかろう。」公叔は言った。「わたくしの中庶子公孫鞅(商鞅)は、年少ながら奇才のある人物でございます。王には国政を挙げて、彼にお聴きになるのが、よろしいようにぞんじます。」王は黙然としていたが、やがて、立ち去ろうとするので、座(公叔座)は人払いをし、「王が、もし鞅を用いることをお聴き入れにならないなら、かならず彼を殺して、国外に出してはなりませんぬ」と言った。
王がうなずいて帰ると、公叔座は鞅を招き、詫びて言った。「さきほど王から、誰か宰相になる人物はないかと問われたので、私はおまえを推薦したが、王の顔つきでは、私のことばを受け入れられそうではなかった。私としては、わが君を第一に、わが臣を二の次に考えるので、王に『もし鞅を用いられないなら殺されるがよい』と言ったところ、王はうなずかれた。おまえは、はやく逃げるがよい。いまに虜にされるかもしれない。」
鞅は「 」と言って、ついに逃げなかった。
『史記 商君列伝 第八』(小竹文夫・小竹武夫訳,1995年,『史記』(全8冊)(ちくま学芸文庫))
突然ですが、この鞅のセリフに入る言葉を考えてみよう。
私は「お仕えしておりますあなたに推薦していただけたのに、逃げることは出来ません」かな、と考えてみたのだが、商鞅は、このように公叔座に言ったのだった。
鞅は「王はあなたの言葉を聞いて私を登用することができませんでした。そんな王があなたの言葉を聞き入れて私を果たして殺せるでしょうか」と言って、ついに逃げなかった。
公叔座の推薦で私を用いないんだから、公叔座の意見を聞いて私をことを殺すこともないでしょう、と。
事実、逃げなかった商鞅は殺されることはなかった。だが、魏の恵王は公叔座の後任にも認めなかった。
魏に未練のない商鞅は、秦の若き君主・考公が人手を募っていること知り、秦へと旅立って行った。
その後、法整備をして秦を法治国家に生まれ変わらせ、富国強兵を狙いとした。この改革では世襲を禁止することを基本とし、資産に流動性が生まれ、農民ですら土地を持てるようになり、 多くの国民にチャンスが拡がった。
いいことをすれば多大な褒章、悪事をはたらけば残酷な処刑。
極端な飴と鞭で法の平等と厳密性を知らしめ、秦を法治国家へと変貌させた法家が商鞅なのだ。
こんな奇才な人物が活躍するのが戦国時代。
他の人物伝も気になった私は、アマゾンで『春秋戦国完全ビジュアルガイド』を購入。『史記』や『春秋左氏伝』なんかも気になるが、初心者に優しいものから攻めていこうと思った。人物一人ひとりに「武力・知力・政治力・弁舌・人格・俠気」のパラメータ付きだ。時代ごとの概要、古事成語のコラム解説もついていて、理解しやすい。
ちなみに、私が大好きな商鞅は人格は1であった。知力4、政治力4、弁舌5の魅力的な男性であっても、人格が1とは、まるで私がダメンズが好きみたいじゃないか。
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大学の授業では「周→春秋→戦国→秦」と言った、周の分裂から中国を初めて統一した秦までを扱うが、楚漢戦争時代から漢の成立までの人物が網羅できる。
大学では『図説 地図とあらすじでわかる!史記』を解説書として推薦している。なお、2013年に加筆修正した新書版が出ているので、購入の際はそちらをすすめる。
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また、『争覇春秋戦国―五覇七雄、興亡の五百年 (歴史群像シリーズ (78))』も推薦図書だ。表紙がちょっと怖いが、『春秋戦国Q&A』では「外国人宰相が大権を手に出来たのはなぜか」、「遊説者は言葉の壁をどう乗り越えたのか」などを取り上げていて初心者にも優しいらしい。
争覇春秋戦国―五覇七雄、興亡の五百年 (歴史群像シリーズ (78))
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あとは話題の漫画『キングダム』を手に取るもの、勉強しやすいのかな。ただ、現在40巻も出ていて、まだまだ連載は続くようなので、覚悟して。
春秋戦国時代にハマっていくと、宮城谷昌光や司馬遼太郎の小説にも手を出すことになるんだろうなと感じているのが現状だ。
また、日本人は三国志が好きな人が多いが、三国志の諸葛孔明が尊敬している蘇秦・張儀を知らずして、三国志好きを名乗れるのだろうか。三国志の前に春秋戦国時代を学ぶとさらなる勉強の楽しみが訪れるだろう。
一通り春秋戦国時代を勉強したので、現在東京国立博物館で開催している特別展「始皇帝と大兵馬俑」 に足を運ぼうとも思っている。