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女子大生の読書ブログ

『〈わたし〉を生きる 女たちの肖像』を読了して

島崎今日子『〈わたし〉を生きる 女たちの肖像』は二〇一一年に紀伊国屋書店から出版された。この本に収録されているのは『婦人公論』に載った「上野千鶴子」を除いて、『アエラ』の「現代の肖像」で掲載されたものである。

〈わたし〉を生きる――女たちの肖像

 

卒論で山田詠美『蝶々の纏足』を扱う予定なので、作家の特集もチェックしている。

 

本の中で「表現者の孤独」として分類された、山田詠美さんの記事は、本人の写真の横に「欲望を文学に昇華する永遠の“あばずれ”」と書かれていた。

 

山田の作品は『蝶々の纏足』「十六にして、私、人生を知り尽くした」、デビュー作『ベッドタイムアイズ』「スプーンは私をかわいがるのがとてもうまい」のように、始めの一文から惚れ込んでしまうのだが、この特集も「何書いてもいいからさ、終わったら飲みに行こうよ」から始まる。

 

詠美さんは、とにかくカッコイイの一言に尽きる。長女で二人の妹がいる詠美さんは、「山田家の長男」の役割も果たす。彼女の文体は硬質で、セックスを描いてもエロとは遠く、物語は感情と関係に収斂される。

 

詠美さんと同年代の作家で、友人でもある島田雅彦さんは、彼女を「時代と闘ってきた女。彼女の本質はゲイだから」と看破し、語る。

「男女平等にもかかわらず、女は相も変わらず媚を売って可愛いほうがいいという世の中。心ある女はゲイにならざるを得ない」

 

 日本を代表する女性作家と誰もが認める山田が、『ベッドタイムアイズ』でスキャンダルという銀粉をまき散らしながら文壇に衝撃的なデビューを果たしたのは一九八五年だ。男女雇用機会均等法が制定され、松田聖子が結婚し、日航ジャンボ機が御巣鷹山に墜落した年。切ない恋物語は相手が黒人だというだけでふしだらと烙印を押され、私生活共々、写真週刊誌やワイドショーの標的となった。

「異人種、それも黒人と付き合って、その色恋沙汰を書いたことが日本男児の反感を煽ったんだね。でも、男は大昔からやっているじゃない。『舞姫』の太田なんて、はっきり言って鬼畜だよ。私は不道徳と言われることいっぱい書いてきたけれど、人としてのマナーは守ってきた」

 山田の恋愛小説は女が男を選び、肉体からすべてが始まる。今でこそそうした小説はあるが、水路を拓いたのは山田だ。

詠美さんの文学に対する真摯さを感じる特集が読めて本当に嬉しい。

 

この本は、作る作業が始まった頃に東日本大震災が起こったそうだ。当時、震災の影響で紙が不足して、雑誌の発売延期や中止が相次ぎ、出版するのを考え直したとのこと。だが、編集者の有馬由起子さんのおかげで本ができたそうだ。

著者、編集者、その他大勢の方のお陰で出版されたこの本に、インタビューを受けた女性たちの生き方に、読者は励まされることだろう。

 

〈わたし〉を生きる――女たちの肖像

〈わたし〉を生きる――女たちの肖像