グレート・ギャッツビーを読了して
「華麗なるギャッツビー」の名前で、ディカプリオが演じた映画として、知っている人は少なくないでしょう。(2013年の話だからね。)その原作本「The Grreat Gatsby」は、F・スコット・フィッツジェラルドが執筆し1925年4月10日に出版したものです。
1920〜30年、大恐慌や第一次大戦に遭遇して価値観の基盤を失い、迷いに満ちた生き方をしたアメリカ人作家たちを総称して「失われた世代」“Lost Generation”と呼びます。フィッツジェラルドもヘミングウェイと並ぶ、その世代の一人。
しかし、ヘミングウェイと違って、フィッツジェラルドは存命中に「文学史に残る傑作」として世間に評価されることはなかったのです。
Modern Libraryの発表した、英語で書かれた20世紀最高の小説2位にランクされている『グレート・ギャッツビー』も評価され、ハイスクールにおける必須の副読本となり、毎年数十万部単位で売れるようになったのは、彼の死後のこと。
だからか、彼自身「ヘミングウェイこそが、現代文学の巨星で、自分はそれに比べればテクニックを心得た文学的娼婦みたいなものに過ぎない」と本気で考えていたような節があります。
そういう考えに至るには、彼の私生活が大きく関わっているのです。
フィッツジェラルドという作家は、自分が体験したことや、自分が目撃したことをもとにして物語を拵えていくタイプなので、『グレート・ギャッツビー』を読み始める前に彼の人生を知っておくと物語がより深みを増すように思います。
ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック (村上春樹翻訳ライブラリー)
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2007/07
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 10回
- この商品を含むブログ (12件) を見る
『グレート・ギャッツビー』は、目的のためには手段を選ばず富を貯えるジェイ・ギャッツビーと上流階級の金持ち層に対する批判的なニック(語り手)の二人が対照的に書かれています。この二人は、フィッツジェラルドの分身として作品の中で具体化されています。
また、長編小説を書くのに没頭したあまり妻のゼルダが浮気をするのですが、妻をヒロインのデイジー、自分を浮気された旦那トムの役柄にあてて描かれています。
村上春樹は次のように解釈しています。
スコットは本質的にゼルダという発熱を必要とし、ゼルダは本質的にスコットという発熱を必要としていたのだ。彼らはその発熱を通して、インスピレーションを鮮やかに交換し合い、高めていくことができた。だから二人の組み合わせは、人生のパートナー選びという点では決して間違ってはいなかった。ただ二人の熱量はそれぞれに一般常識の範囲を超えて強烈だったから、長期間にわたってバランス良く互いを支え合うことは不可能だった、ということなのだ。おまけにどちらの側にも、人生を送っていく上で必要な実務能力が決定的に欠如していた。お互いの持つ欠点をなんとか埋めていこうという意識も皆無だった。(中略)
しかし何はともあれ我々はここに、二人の類い稀な(あるいは一期一会と言ってしまっていいのかもしれない)発熱の結合が生み落としたものとして、『グレート・ギャッツビー』というほとんど完璧なフィクションを手にしている。我々はその事実をただ慶賀するしかないだろう。スコット・フィッツジェラルドとゼルダの巡らなくてはならなかった、華々しく、数奇で、そして哀しみに満ちた運命に対して、とてもひと言では言い表せない深い思いを抱きながら、それでも。
日本では翻訳本として、野崎孝訳、大貫三郎訳、佐藤亮一訳、橋本福夫訳、守屋陽一訳、村上春樹訳、小川高義訳のものがあります。
私がオススメなのは村上春樹の翻訳本です。理由は、そもそも村上春樹作品が好きだからということと、村上春樹の『グレート・ギャッツビー』の翻訳にかける思い入れが強いこと。村上春樹の翻訳本では「現代の物語」になっていて、ひとつひとつの会話(ダイアローグ)が生命を持ったものであり、さらに、文章がリズムに乗っています。
終わりに『グレート・ギャッツビー』をこの3つの内、どれかに当てはまる人には、ぜひ読んでいただきたいと思います。
1つに、バブル崩壊後の日本の失われた20年生まれの私と同じ世代の若者。きっと、フィッツジェラルドと同じような「失われた時代」を生きてきたものにしか味わえない感覚を掴むことが出来ます。
2つに、村上春樹作品をこよなく愛する人。私自身、村上春樹作品を貪りつくように読んでいる読者の一人なのですが、 まだ翻訳本には手をつけることが出来ていませんでした。村上春樹の純粋な作品もまだ全部読み終えていないのに、先に翻訳本を読むなんて・・・と思っていたのです。しかし、彼の人生で一冊だけ選ぶ重要な作品として挙げるのが『グレート・ギャッツビー』とのこと。巡り会わなかったら、今とは違う作品を書いていたかもしれないし、あるいは何も書いていなかったかもしれないそう。
3つに、これからニューヨークにむかう人。『グレート・ギャッツビー』を読めばニューヨークのことがわかります。たとえ1925年というかなり昔の作品であっても。
深く心に残るアメリカ文学作品、長い秋の夜のお供にどうぞ。
- 作者: スコットフィッツジェラルド,Francis Scott Fitzgerald,村上春樹
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2006/11
- メディア: 単行本
- 購入: 23人 クリック: 170回
- この商品を含むブログ (483件) を見る