プルーンプラム

女子大生の読書ブログ

娼年を読了して

娼年 (集英社文庫)

 

娼年 / 石田衣良

 

心を動かされた部分を。

「きれいな顔や上手なセックスだけが、女を惹きつけるとでも思ってるの?あなたのいつも難しそうな顔をして悩んでいるところも、ほかの人から見ると魅力的だったりする。自分で意識してる魅力なんて底の浅いものよ。」

 

「わたし、約束の時間のまえにきて、今日はどうしようかなって考えるのが好きなんだ。だって人を待つ時間てすごくじれったいでしょ。そのじれったいのが好き。だから、素敵だなと思う男の子だと、すぐに寝てしまうのが惜しくなる」

 彼女は目をあげて、ぼくをまっすぐに見つめた。目の縁だけでなく、白目も熱をもったように染まっていた。

「若い男の子にはこんな気持ちわからないかな」

 

 女性ひとりのなかに隠されている原型的な欲望を見つけ、それを心の陰から実際の世界に引きだし実現する。それが娼夫の仕事だとぼくは考えるようになった。

 それを最初に教えてくれた女性の話をしよう。

 

 

 この本の主人公は、恋愛にも大学生活にも退屈し、うつろな毎日を過ごしていたリョウ、二十歳。女性向け会員制クラブのオーナー御堂静香から誘われ「娼夫」の仕事を始めます。

 

 ここで姫野カオルコ氏の解説の言葉をかりると、

主人公の森中領が、女性に肉体を売る仕事をする話と一言ですじは終わりだけれども、何がどうおこったかより、何が「どう」綴られているかを読みたい人のための本とまさにそのように紹介出来る本です。

「ラブシーン」と古式ゆかしく呼ぶのがぴったりな、愛らしい硬質感のある本です。

 

「・・・それまで死はとても遠いものだとわたしは思っていた。昼と夜のようにはっきりと別な世界の出来事だと。でも身近な人がむこうにいくと、死の世界そのものも身近になる。昼と夜のあいだには夜明けと夕暮れがある。この世界には百パーセントの光も、百パーセントの暗闇も存在しない。生と死はパイ生地のように無数に折れ重なっているもの。宗教でも哲学でもなく、わたしの感覚にすぎないけれど・・・・」

この生と死についてかかれていた部分と、セミの鳴き声に包まれた確かな時間についての会話の部分は文学少女の私をあっと言わせる書き方でした。余韻に浸れる素敵な文章です。

 

以下はやさしいリョウの名言です。

誰もが自分のスタイルや物語をもっている。それは表面的な飾りにすぎないという人もいるだろう。欲望の真実はどこか深部にある。

 

ぼくたちは自分で設計したわけでもない肉体の、ごくわずかな部分に振りまわされて一生を過ごす。過剰な欲望をもつ人は生涯を檻のなかで送ることもあるだろう。

 

でもぼくは真実も深部も見たくはない。表面を飾ろうとする気持ちだけで、ぼくにはどの女性も魅力的に見えた。悪趣味でちぐはぐな衣装だと人をあざけることは、ほんとうは誰にもできないはずなのだ。この世界では誰もが、手近なボロ隠しをまとっている。黄金の心をもつ正しい人間だけ裸で外を歩けばいい。ばくは裸が嫌だからボロを着る。

 

 

まあ、私と同じ二十歳の男の子がこんなに大人びていて、実際の私の目の前にあらわれたらとても驚きますけどね。

私も読み進めていくうちにリョウと同様に、女性の欲望の不思議に魅せられていきました。

娼年て英語表記だと、ただただ単純に、call boy になるけれど、なんかそれだとこの本のタイトルにはそぐわない気がしました。日本語だとしっくりくるのは、最近英語に触れていないからかな・・・・